ディレクション/A Factory inc
3Dモデリング•デジタルファブリケーション/TERADA 3D WORKS
技術協力/泉貨紙保存会会長 平野邦彦
-RIMOWA表参道店 オリジナル照明を制作するにあたり-
りくうでは「呼吸する和紙」という湿度調整·空気清浄効果持たせた原材料を和紙のこよりでデザインパターンを作った上に手漉きで漉いていくデザイン和紙を主に制作しています。近年では、デジタルファブリケーション機器を取り揃えたラボを持ち、様々な形状の作品、特に立体和紙を多く発表しています。
伝統的な和紙の制作手法に敬意を払いながらも「和紙」という素材が持つ、日本人が根底に共有する美意識、脆いもの·儚いものへの理解や敬意といった概念を現代的な手法を用いながら表現できればと考えました。
伝統工芸である和紙が現代でも職人によって制作され、人々に使用されているのは、これまでも和紙製造において新たな技術、道具が開発される度に伝統的な手法も進化をし表現をもアップデートてしきたことの証です。
まさに、RIMOWA社が125年の長きに渡る歴史の中で、真髄を守りながらも改革を続け今もなお人々から求められるブランドとして世界中で愛されることは多くのものづくりに携わる人々の希望でもあります。
りくうでは、文明の利器であるデジタルファブリケーションを新たな道具と捉え、伝統と呼ばれる工芸の中にも世の中に漂う「今」求められる表現、自分たちの中に湧き上がるクリエイションを制限なく発露させ、様々な素材·技術の垣根を越え、手工芸の表現の幅を広げていきたいという思いがあります。
日本の情緒を感じさせる繊細な表現を和紙で、と考えた際に店舗内で長くご使用頂くために最も重要な「強度」と「儚さ」のバランスが大きな課題かと思いました。
「花弁雪」「朧月」というどちらも繊細さや透明感を感じさせる自然の事象の表現には光との関係が大切であり、照明を透過させながら強度を保てること、熱に強く湿度にも左右されないこと、また工房内デジタフファブリケーションラボで形状のデザインが自在に検討できる点を考え、和紙の土台の素材としてアクリル板を採用しました。
本国パリのトップアーキテクトに提出したポートフォリオとデザイン案、コンセプトを高く評価頂き、照明のデザイン・制作を一任されました。
設置日に現場で彼とお話した際に、完成した照明を「大変美しい」と言って頂き、ファッションにまつわる世界に再び関わることが出来、ブランドの世界観を構築するような形でより深く携われることを心から嬉しく思います。
■ 花弁雪
花のように降る大粒の雪、柔らかい煌めき。
りくうの和紙工房は、標高が少し高く、冬になれば雪が多く降り積もるエリアにあります。
あるとても冷えた朝、そんな日の水仕事は厳しいものですが、ハラハラと降る雪が朝日を乱反射させ、光り輝きながら落ちてきた情景を目にし深く心を動かされました。
店舗内吹き抜けに連なる照明は、ふわりと咲き誇る花のようであり、大粒の花弁雪が日の光を反射してキラキラと銀色や金色に輝きながら舞い落ちる高揚や希望を感じる瞬間を表現したいと思いました。
ランプシェードに使用されている羽のようなパーツの形状は、RIMOWAの代表的なスーツケースの直線ラインの連続を意識し、また花びらの曲線やたおやかさを意識し固いイメージとなりすぎないように、柔らかに隆起して波打った形状のパラメトリックなデザインを採用しました。
全体のイメージとして、RIMOWAスーツケースの代名詞である『軽量性』からくる軽やかさを想起させるデザインを目指しました。
花弁雪を思わせる濃淡のある和紙繊維から光が透き通るパーツ。
和紙繊維表面の輝きは、純真なパールホワイトやシルバーやゴールドのカラーがエアブラシで繊細に吹き付けられ、店内を移動する人々の目線が動くことで、角度によってキラッと上品に輝きます。
2F奥のランプシェードは白、シルバー系で統一。
冷気で冴え渡る空から舞い落ちる花弁雪、牡丹雪の純粋な白雪をイメージ。シルバーやパールホワイトをメインにしたカラーをミックスさせたフィンパーツを使用します。
■ 朧月
定規で引いたような直線、コンパスで画いたような円や円弧、それらの連続模様のようなシンプルで美しい店舗インテリアデザインとの親和性も加味し、今回のブラケット照明の形においては正円を上下に、両端には直線を用いたアール·デコを思わせるシンプルな楕円形状としました。
「ほのかにかすんだ月」 春の季語。 春は昼と夜の気温差が激しいので、昼にたまった暖かい空気は夜になると急激に冷やされ「水蒸気」となり朧雲を透して月を見ると、まるで曇りガラスを透して見ているように輪郭がぼやけ、幻想的な姿になります。そんな風に輪郭がはっきりせずに、朧雲の中に浮かぶ月の光に光源を見立てた、ブラケット照明カバーを制作します。
情緒的な朧月の霞、雲を表現するため、紙の繊維をもやのように漂わせる表現をいくつも試作を繰り返し納得の仕上がりに辿り着きました。
鱗のような綿のような細かに千切れて並び浮かぶ雲や、水蒸気で霞んだような雲、夜の青に覆われていく雲。光透過する、和紙プレートを幾重にも重ね、背後から照明が朧月の光のような優しい光を放ちます。
シルバーやパールホワイトのカラーを纏った和紙の繊維が施されたプレートを20枚ほど重ね、どの角度から見ても稀有なビジュアルに仕上げました。